メモから始まる
2010.01.22 


オレは海馬の事が好きだ。
likeじゃなくてloveの方ね。
オレってば好きになったら一直線の人だからしつこくアタックにアタックを重ね、やっとこさ『友達』という立場まで昇華することが出来た。
オレが目指してんのは『恋人』だからまだまだなんだなんだけど。
でも『友達』になったおかげで家に遊びに行っても文句言わなくなったし同じベッドで寝れるようになった。『友達』万歳!
んで、今日も例の如く海馬の家に遊びに行ったんだけど仕事がまだ終ってないって部屋から追い出された。
だから今はモクバの部屋にいる。
さっきまで二人でゲームしたりデュエルしたりしてたけどそれにも飽きて今は別々でだらだらと海馬の仕事が終るのを待っていた。

「あ、そーだ。
モクバ、ジャンプ貸してくれよ。
オレまだ読んでねぇの」
ふいに、今週号をまだ読んでなかったことに気がついた。
いつもは立ち読みで済ましてるけど、今日金曜日だからコンビニにもう置いてなかったんだよね。
しかも最近のマンガは極端に展開が早いか極端に展開が遅いかだから一冊抜かしただけでオレのみみっちい脳ミソはついていけなくなる。
「いいぜぃ。
えぇと、多分そこら辺に積んであると思う」
「あいよー」
適当な返事をして部屋を見渡した。
ジャンプは棚の隣に積んであった。
「あった?」
「あったあった。じゃ、借りるわ」
よし、読もうとジャンプを取り上げたら棚にぶつけてしまい、なにか紙がヒラヒラと落ちてしまった。
ちっちゃなメモ用紙だった。
仕方ないから戻そうと拾うと、ちろっとメモの書いてある部分が見えた。
瞬間、オレはそのままの体勢で5秒ぐらい固まってしまった。
や、きっと5秒以上固まってたと思う。
なんでかっていうと、ちょっと…ってかスゴく意外だったんだよね。
そのメモ。
でも内容はいたって普通で『20時には帰る 瀬人』と書かれているだけだ。
きっと海馬がモクバ宛に書いたんだろうな。
それだけならいい。
それだけならオレも特には気にしないし固まったりしない。
だけどどうしても気になる部分がただひつ…
「字、超可愛い…」
そう、字がスゲェ可愛かったのだ。
それこそ、理想的な『女の子の字!』みたいなお団子みたいに丸くて、下手くそな字だ。
瀬人って書いてあるし、海馬が書いたのかな?
だとしたらスゲェ可愛いな。
惚れ直したぜ。
さすがオレの海馬。

っオイオイちょっと待てオレ!
まだ海馬が書いたと決まったワケじゃないだろ!
メイドさんか他の誰かに書かせた物かもしれねぇし!
「どうしたんだよ?城之内。
今週号なかった?」
「えっ!?あ、いや、なんでもな…」
「ん?そのメモがどうかした?」
「うわあぁあ!ななな、なんでもない!マジなんでもない!
ちょっとだけ、字、可愛いなーとか、コレ書いたの海馬だったら可愛いのになーとか思ったりしたけどマジでなんでもないから!」
「……」
何を言っている、17歳。
そう言わんばかりにモクバの視線は冷たかった。
そしてハァとため息を吐いてコッソリ期待してた意外なことを言ってくれた。
「それ、書いたの兄サマだよ」
「嘘ォ!?」
「本当。
なんだったらそのメモあげようか?」
「いいの!?貰う貰う!!」
「貰うのかよ」
「え、くれねぇの?」
「いやあげるけど…」
モクバは言葉もちょっぴり冷たいような気がした。
でも海馬の意外な丸字直筆メモを貰えるんだから少しも気にしなかった。
「城之内って兄サマの事好きなんでしょ?
今まで気付かなかったの?」
「いやぁ全然…って!何でお前、オレが海馬の事好きなの知ってんの!?」
「行動を見ればわかるぜぃ…。
ま、兄サマは気付いてないようだったけど」
そうなんだよ。
海馬ったら超鈍感なんだよね。
オレが女の子だったらきっと気付くんだろうけど、男だからなぁ。
普通、男が自分にアプローチしてきてるなんて思わねぇもん。
「でも、ま、頑張るよ」
「…あっそ。
適度に生暖かく見守っててやるよ」
「サンキュ」
「そろそろ兄サマも仕事終った頃じゃい?」
「そうだな。
じゃ、行ってくる」
「兄サマに変な事すんなよ」
「…するかも」
「は?」
「オレ、今日海馬に告白するわ」
「……。
今更どうこう言う気はないから好きなようにやってきなよ。
でも兄サマ泣かせたらコロス」
「わぁってるって」
背で、バタンとモクバの部屋のドアが閉まる音が聞こえた。


++++++++++


「ということなんだよ。
だから好きです。付き合ってください」
「ということではないわ!
結局貴様、俺のことを馬鹿にしているのだろう!
悪かったな!女みたいな字で!」
バチンッと盛大な音がして左頬に痛みが走った。
どうやらビンタされたらしい。
「てめっ…」
ちょっと待てオレ。
ここでキレちまったら告白が台無しだろうが。
我慢だ我慢。
「お、オレは別に咎めたワケじゃなくて女の子みたいで可愛いって言ったんだぜ?」
「可愛いといわれても嬉しくないわ!馬鹿者!」
もう一度海馬が手を振り上げた。
でも今回は避けたから当たんなかった。
「じゃあさ、嬉しくなくていいから城之内瀬人って書いてみね?」
「はぁ!?何故貴様の名字で俺の名前を書かなければならんのだ!」
「好きだから」
「お、俺は男だ!」
「知ってる。
でも、そのつんけんした性格もオレよりでかい図体も女の子みたいなお団子文字も全部ひっくるめて好きなんだ」
「っ…!」
海馬はボンッと一気にいちごみたいに真っ赤になって俯いてしまった。
「かい…」
「…き、貴様は、ワケがわからない…!」
多分混乱してるんだろうな。
普段の海馬からは想像のつかないか細い声だった。
「いきなり喧嘩を吹っ掛けてきたと思ったら、次はベタベタしおって…
挙げ句の果てには好きだと?
本当、ワケがわからない…」
「うん。でも、好きなんだ。
気付いたら好きになってたんだ」
「…帰れ」
海馬が俯いたままドアを指差した。
「……そうだな。今日は、帰るわ。
でも、オレ海馬のこと好きだから、それだけは覚えてて」
そう言い残して、オレは屋敷を出た。


++++++++++


結局その日はそれ以上なにもせずにまっすぐ団地に帰った。
なんだろう…。本当は告白する気、なかったんだ。
もうちょい待ってからって考えてたのに、あのお団子文字を見た瞬間、海馬がぐ
いっと近くなった気がしたんだよ。
ほら、海馬ったら何と無く機械みたいな感じするじゃん。
『友達』になってオレの扱いが柔らかくなって、ああ、海馬もちゃんと生きてんだってわかったけど(一応褒めてる)どこか機械っぽさが抜けなかったんだよね。
でもメモの字はお団子文字でへたっぴでしかも不安定で…どこか暖かみがあった。
だから今ならいけるって思ったんだろうな。

「嫌われたかなー…」
嫌われてたらどうしよう。
永久に無視されんのかなー。
それとも殺されるかもな。なんとなく。
ガサッと、ポケットの中からモクバに貰ったメモを取り出した。
じっくりと見てみると、海馬の字は全体的に不安定で、2なんて頭でっかちすぎて下の線がポッキリ折れてしまいそうなぐらいだ。
おまけに0はまんまるで(これこそお団子みたいだ)、漢字は諞と旁が分離してるし、平仮名はやけに小さい。
なんというか…微笑ましい。
こんな字でラブレターとかもらったら幸せすぎて死ぬ。
あ、勿論海馬限定だけどね。



++++++++++


現在朝の3時。
どうやらオレは海馬のメモを見ながらそのまま寝てしまったらしい。
幸い目覚ましには反応できたから、起きてすぐ支度して新聞配達に出ることにした。
「ん?」
団地から出る際、普段は借金の取り立て書とかピンクビラぐらいしか入ってない郵便受けに、別のものが入ってることに気がついた。
「…なにこれ」
取り出して見ると、それは何も書いてない真白い封筒だった。
怪しいと思ったけど開けることにして、封を切る。
中から出てきたのは一枚の小さなメモだった。
「!!
これって…!」
思わず大声が出そうになった。

KCのロゴが入った四角いメモ。
何度も何度も書き直した跡。
そしてその上から見間違える筈のない大好きな海馬の不安定お団子文字で一言。

『好き。』

裏には、『かもしれない。』と恥ずかしそうに小さく書かれてた。
これも勿論お団子文字で。
「海馬ぁっ…!」
単純なオレはそのメモを見ただけで、新聞配達や学校のことなんか全部忘れて、馬鹿みたいに駆け足で海馬の屋敷に向かった。


End.

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一軸様/処方箋δ

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