丸文字に愛を込めて
2010.01.24 


 突然だけどオレの恋人は容姿端麗、頭脳明晰、財産豊富、そんな煌びやかな言葉の全てを並べてもまだ足りない位の完全無欠のスーパー高校生だ。口を開けばその道の第一人者が唸り声を上げて顔を顰め、冷や汗を流す言葉を延々としかも得意気に話し続け、びしっとスーツでキメて外を歩けば男女共に振り向かない奴はいない程のイケメンオーラ大放出。

 手モデも吃驚な綺麗過ぎる指先から繰り出されるのは、鮮やかなカード捌きと一流の技術者にも負けない細やかな技の数々。オレなんか見ただけで頭の痛くなる集積回路?を目の前に、針みたいに小さなドライバーを片手に嬉々として取り組む姿は何と言ったらいいか分からない。とにかく凄い。器用とか器用じゃないとかいう問題じゃない。もう頭がおかしいとしか思えない。

 こういう人間は早めに専門の施設に収容して貰って相応に活用した方がいいんじゃないかと時折思う。……まぁ、実際そうなっちまったらオレは悲しくて泣くんだろうけど……ってそんな事はどうでも良く。結局今何が言いたかったかって言うと、オレの恋人……ぶっちゃけて言わなくても海馬瀬人君の事なんですけど……は信じられない程頭が良くって見た目も良くって、恐ろしく手先が器用だって事を言いたかったんです。OK?

 そんな海馬の事をオレは物凄く自慢に思うと共に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ妬ましく思っていた。人間なら誰だってそうじゃねぇ?完璧な奴を目の前にすると凄いなぁと思うと同時にむかつく、と思うじゃん。あんな感じで。だからオレは海馬がオレよりも劣っている部分が一つでもあれば、もっと好きになれるんじゃないかって思ってた。まぁ、そんな事は有り得ないけど。


 ── 有り得なかった、筈なんだけど。


◇ ◇ ◇


 それはある休日の事だった。その日は、というか正確に言えばその前の日からオレは珍しく週休二日で、だったらする事は一つとばかりにアポも取らずに海馬邸に押し掛けて、形だけ嫌がった海馬をちゃっちゃと押し倒してベッドまで連行した揚句、待ての言葉を唇で塞いでそのまま美味しく頂いた後、幸せな気持ちで眠りに着いた。

 勿論今までにない程良く眠れて、寝覚めも最高、休日は後一日あるし今日はどう過ごそうかな〜ってウキウキした気分で身体を起こして隣をみたら、寝る時は確かに抱き枕にしてた筈の海馬が消えていた。奴が朝起きた時に隣にいない事なんて初めてだったから(っつーかそもそもお泊りしたのがこれで3回目なんだけど)、オレは吃驚して飛び起きて、慌ててその姿を探しに行こう!と昨日床に脱ぎ散らかした服を取ろうとした。……が、不思議な事にそこにはオレが履いていたスリッパがきちんと揃えて置かれているだけで他には何も落ちて無かった。

 あれ、と思ってぐるりと周囲に視線を巡らすと、ベッドサイドにある何時もは海馬が携帯や着替えを置いている場所に、オレの服がきっちり畳まれて置いてあるではないですか。すわメイドさんが?!と思って一瞬焦ったけれど、畳み方の癖がどうも見た事があるので、これは海馬君のご厚意みたい。……なんていうか、あいつ男なのにマメだよなーやっぱ社長になる奴は違うわー、なんて自分でも余り意味が良く分からない言葉を口にして、オレがその服に手を伸ばしたその時だった。

 乱れ一つ無くきっちりと置かれたよれよれのTシャツの上に見慣れない紙切れが落ちていた(置いてあった、かな?)。ひょいと指先で摘み上げてぱっと見ると、その紙は多分メモ用紙で端っこにやけにリアルなブルーアイズが刷り込まれてるKCオリジナル……っていうか多分海馬君専用メモ用紙。そこまでは、まぁ見慣れてるから特にどうとも思わなかったんだけど(あいつは大人ぶってる癖にブルーアイズグッズをやたら持ってるからな)、そこに書かれていた文字を見た瞬間、オレは自分の目を疑がった。

 あ、念の為に言うけど内容の話じゃないからな?そこに書かれていた伝言は『20時には帰る 瀬人』っていう至って普通の、素っ気ないもんだったし。だから、着目する所はそこじゃない。問題なのは紙でもなく、内容でも無い……


 ── 文字、だったんです。海馬君の。


 ものすごーく不器用そうな女の子が書きそうな文字。下手くそで……だからこそなんだか微笑ましく見える、この丸文字が。


 ……あの完全無欠の海馬君の文字だなんて、これは何かの間違いじゃないでしょうか?!


「モっ……モクバぁあああああ!!」


 そのメモを改めて凝視した一分後、オレはそれを大事に大事に両手に挟んで廊下を全力疾走し、事の真相を誰よりも良く分かるだろう兄サマラブの弟の元へと駆け込んだ。時刻はもう午前9時。この時間ならノックも無しで入った所で特に咎められる事もない。

「何だよ朝から煩いなぁ、兄サマなら急な仕事が入ったって一時間前位に社に出かけて行ったぜぃ」
「えっ?!そうなの?!って、いやいやそうじゃなくって!!」
「何」
「こ、このッ!この、小学生の女の子がデッカイ鉛筆を必死に握り締めて書くみたいな字!!これ、何事?!」
「は?」
「お前が書いたんじゃないよな、これ!!いや、むしろお前が書いたんだと言ってくれ!!そうじゃないとオレ、キュン死する!!」
「……あー……メモかぁ」
「あー、じゃねぇよ!早く『オレが書いた』って言え!」
「……オレが書く訳ないだろ。兄サマだよ」
「…………っぐは!!マジか!!」
「嘘言っても仕方がないだろ。お前、見た事なかったんだ?兄サマの文字」
「う、うん。なんか訳分らん英文なら見た事あんだけど、これはない!!どうしよう、朝から興奮が抑えられない!モクバ、ちゅーしよう!!」
「何言ってんだよ!気持ち悪ぃなぁもう!いいから落ち着けよ!!」
「これが落ち着いていられるかよ!!あの、あの海馬が、こんなっ!!」
「兄サマはそれをすげー気にしてんだからからかったりするなよ!お前、二度とここに来られなくなるぞ!」
「だ、だってお前、これにときめくなっつったって無理だろ?!常識的に考えて!!」
「………………」

 部屋に入った瞬間、オレは手にしたメモ用紙をまるで宝物の様に恭しく掲げながら、ソファーに座ってゆったりと寛いでいたモクバの前に立ちはだかると、一気に思っている事を吐き出した。っていうか、こんなものを見て黙っている事なんて不可能だった。オレの指先でひらひら舞うメモに合わせて可愛く揺れるヘタな丸文字。これと昨夜の海馬の顔が重なって、何とも言えない気分になる。

 っくーー!たまんねぇ。オレ、今人生で一番興奮してるかも。このまま死んでも良いかも知れない。そんな事を素直に口にも出して呟いたら、モクバは心底呆れた顔をして「病院行って来いよ」なんて冷たく言い放つ。そしてぽつりとこう言った。


「……兄サマはさぁ、英文はすっごく綺麗なんだけど、日本語が苦手なんだよね」


◇ ◇ ◇


「日本語が苦手って、日本人なのに……!」
「んーっていうか、それも英才教育の弊害っていうかー何でも英文で書く癖がついちゃったから。んで、今は電子社会だろ?日本語書く機会が少ないじゃん。サインだって英語だし」
「……あー、なるほど……っていや!!でもそんなん理由にならなくね?!」
「うん、ならないよ。オレがそう言って慰めてあげてるだけ。実際は兄サマだって普通に日本語で書類作るし、学校のノートだって日本語だろ」
「……ちょ」
「結構皆吃驚するんだよねー。兄サマって頭がいいし、カッコいいし、手先器用だろ?そんな人が目の前でこの文字書いてみろよ、もう皆目を丸くしちゃってさ」
「だろうな。オレだって生で見たら萌え死ぬし」
「お前と一緒にするなよ!兄サマに取っては大問題なんだからな!」
「やーでも別に字が下手だって死にはしねぇんだし、別にいいんじゃね?オレは好きだなーこの字。可愛い」
「……変な奴」
「あ、そういう事言う。でもお前だって色々言う割に対策取らねぇって事は、似た様なもんだろ」
「うん。可愛い。出来ればあのままでいて欲しいよ」
「だよなー!!よし、会作ろうぜ!『瀬人の丸文字を守る会!』」
「や、別に守らなくてもいいとは思うけど……」
「あーもうダメだ。我慢出来ない。オレ、KCに行って来るわ」
「え、何言ってんだよ?!大人しくここで待ってろよ!」
「無理。こんなもん残した海馬が悪い。オレは行くったら行く」
「城之内!!」

 モクバと何となくお互いに口元を緩めながらそんな事を離した直後、言葉通り本当に我慢出来なくなったオレは、必死で止めようとするモクバの声を振り切って、そのまんまの姿で本当に屋敷を飛び出した。後から良く考えたら朝起きてから顔洗ってねぇとか、寝癖付きっぱなしだとか、一応冬なのにジャケット羽織ってくんの忘れたとか(オレは冬でも半袖だ)、色々おかしな所もあった気がするけど、そんな事なんか全くどうでも良くなるほど、オレは海馬に会いたかった。


 会って、一言言ってやりたくてたまらない。


「じょ、城之内……何故君がここに?!屋敷にいた筈では……」
「あーうん。おはよー磯野。ちょっと海馬に用があってさー、飛び出して来たんだ。あいつ、いる?」
「瀬人様は今会議中だ」
「そっかぁ。そうだよなー」
「と言うか、その予定が入ったからこそ休日でも出社されているのだ。重要な案件でな、終わるのは何時になるのか分からないぞ」
「知ってる。でも夜の8時までに帰るって書いてあったから、そん位には終わるんだろ?」
「……そうなのか?」
「そうなの。まーでも折角来たし、待っててもいい?」
「こんな所で待っていても面白くもなんともないぞ。屋敷に帰ってモクバ様と共にいた方がいいんじゃないか?」
「うん、でも、待ってたいんだ。変な事しねぇからいいだろ?どうせ今日は日曜だし、誰も来ねぇんだろ?」
「それは、そうだが」
「じゃ、オレ、社長室にいるわ。もし海馬に会ったら顔見せてーって言っておいて」
「な、待て!城……!」

 誰もいないだだっ広いエントランスで何とかオレを引き留めようと声を上げた磯野を無視して、オレは勝手知ったる他人の会社、とばかりに走ってエレベーターに乗り込むと、社長室のある最上階のボタンを押した。ここに居たって特に面白いものなんかねぇって事なんか、今更言われるまでもなかった。でもオレは家で待ってるのが我慢出来ないからこうしてここに来た訳だし、帰れと言われても帰る気なんかない。

 それに、海馬の顔を見る以外にも有意義に時間をやり過ごす方法を見つけたからだ。


「お邪魔しまーす。って、誰もいないかー」


 高速エレベーターは何時も通りの驚異的な早さで最上階まで驀進し、誰もいないその空間へと降り立ったオレは、全く迷いなく社長室まで歩いて行くとしんと静まり返った部屋へと足を踏み入れた。人一人が仕事をする部屋にしてはやけに広いそこをぐるりと見渡して、余りにも見慣れた光景にほっと息を吐く。いつもはここで机やソファーに『社長』の姿がないと凄く寂しい気持ちになるんだけど、今日のオレは違っていた。何故なら目の前に、宝物の山があったからだ。

 そっと足音を忍ばせてオレは『それ』に近づいて行く。そしてそーっと手を伸ばし、一番上に置かれていた厚さ5センチ余りの『宝物』を手に取った。ぱらりとそれを捲ると、はたしてそこには求めていた萌えの塊が存在していた。

「うっわーすげー。マジだよこれ……」

 オレがそんな事を呟きつつ、口の端から涎を垂らしそうな勢いで眺めていた『それ』は、海馬が常に机上に積み上げている書類の束の一部だ。会社の人間がこれを触ろうもんなら即刻クビが飛ぶんだろうけど、オレなら頭に拳骨を食らう位で大して怒られない。

 何故なら何が書いてあるかなんてさっぱり分からないからだ。オレが仕事の邪魔をしようと嫌がらせにパソコンやファイルを覗いても、奴は「理解出来るものならしてみせろ」といつも挑戦的に言って笑うだけで何も言わない。可愛くない。

 だからオレが今更書類の一つや二つを盗み見たって大した事はないだろう。尤も、今は嫌がらせの為じゃなくって、確認の為にやってるんだけど。

 オレの指がぱらぱらと紙を捲る度に現れるのは、あのメモと同じいびつで可愛らしい丸文字の羅列だった。今まで本気で中身を凝視した事なんかなかったからこんなに可愛らしいモノがこの部屋に存在しているとは思わなかったけど、この破壊力たるや凄まじい。書いてある事は意味不明の専門用語なのに、如何せん字の所為で全く迫力がない。なんだろこれ、オレのノートよりもまだ酷いじゃん。可愛いな。

 って、何回可愛いって言えば気が済むんだ。これは病気だな。

 しっかし、どういう書き方したらこんな書きにくそうなヘタ字になるんだろうなぁ。あいつ姿勢が良いし、箸の持ち方もペンの持ち方も完璧だった筈なんだけど。あの繊細そうな指先でこんな字を書かれたら確かに周囲は吃驚するよな。やべ、そういうのすげー見てみたい。海馬には気の毒だけど、めっちゃ面白い。最高過ぎる。

 余りに夢中になり過ぎて、オレはいつの間にか社長机の上に腰掛けて、そこにある書類を片っ端から手にとっては眺めてしまった。いかにも堅苦しい仕事用の書類を真剣に眺めながらニヤニヤ口元を緩めてる金髪男ってどうなんだろ。傍からみたらとんでもなく怖いんだろうな。でも止められない。

 傾いている方向がばらばらで、漢字とひらがなと数字のバランスが合ってなくて、さんずいの跳ねが大げさで、筆圧が半端ないのか下の紙までちょっと凹んでるその文字達を見つめながら、オレは段々と海馬の事が好きになっていった。いや、今までも勿論大好きだったけど、それとはまた違った次元で惚れ直してしまったというべきか。

 完璧な筈のあいつが持っていた、唯一の欠点。それが、余りにも可愛らしいものだったから。


「凡骨!!貴様何をしているッ!!」
「ひぃっ?!」


 不意に部屋中の空気が震えるほどの大声が聞こえたと思った瞬間、オレの手の中からバサバサと大量の書類が床に落ちた。幸いな事に全部が全部しっかりと纏められていた事や、オレの持ち方が上手かった所為か折れ曲がる事もなく、綺麗に(と言ったらヘンだけど)床の上に重なっている。その様を呆然と眺めながら、オレは恐る恐る、声がした方を振り向いた。

 するとそこには、鬼の様な顔をした海馬が両腕を組んで物凄い迫力でオレを睨みつけていた。え、会議は?なんかちょっと早くね?ちらりと傍にあった卓上時計を眺めながら、オレが現実から目を反らす為にそんな事を思っていると、海馬はずかずかとこっちに近づいてきて、低い低い声でこう言った。

「主人の言う事も聞かず勝手に後を付いて来た上に、部屋を荒らすとはどういう了見だ?何をしでかしたのだこの犬が!」
「ひっ!……や、その。ご、誤解だって!オレ、別に部屋荒らしに来たんじゃねぇし!」
「書類を荒らしているだろうが!!そんなものをどうする気だった!」
「ど、どうもしねぇって!見てただけだよ!」
「見ていただけだと?嘘を吐くな!!」
「嘘じゃねぇって!ほんっとにオレ、見てただけで」
「内容も理解出来ない様な紙切れを貴様が見てどうすると言うのだ」
「だ、だから……」
「どうするのだと聞いている!!」

 まるでオレの鼓膜をブチ破らんばかりに大声を上げて怒鳴りつけて来る海馬の声を聞きながら、オレは手を机上に滑らせて、少し離れた場所にあった『あれ』を指先でつまみ上げた。お前は完全に誤解してるみてぇだけど、オレが見たいと思ったのは書いてある内容じゃなくてその文字なんだと、奴に証明する為に。

 オレは未だ般若の顔でオレの前に迫っている海馬の鼻先に慌てて手にした『あれ』……海馬がオレに残したメモを掲げて見せた。そしてすかさず口にする。

「これ、が、余りにも可愛くて。我慢出来なくてここに来ちまったんだ。下で磯野に会って、お前が会議中だって言うからここで待たせて貰って……する事が無かったから、書類を、つーかお前の字をずっと眺めてたんだ」
「……は?」
「だから!もっと分かり易く言えばお前の字に萌えて、萌えたー!好きだー!って言いたくなって来ちまったって事だよ!そんでもってここにもっとお前の字があるかと思って漁って眺めてニヤニヤしてたって、そういう事!」
「なっ!!」
「お前って顔に似合わずすんげーへったくそな丸文字書くんだなー。可愛い可愛い」

 海馬の迫力に微妙に押され気味だったオレは、負けてたまるか!!って気持ちを込めて一気にそう畳みかけてやった。そんなオレの言葉に最初はさっぱり理解出来ません、とばかりに怖い顔のまま首を傾げていた海馬は、やがて言われた意味を正しく理解したのか、一転して違った意味での怒り顔になった。

 なんていうか、あれだ。
 恥ずかしくってどうしたらいいか分からないから取り敢えず怒っとけ、なアレ。

「き、貴様は……オレを愚弄するのか?!」
「なんでだよ。可愛いって褒めてんじゃん。今まで全然知らなかったけど、ほんっと最高だわお前」
「死ね!!それ以上文字の事を口にするな!!」
「いやいや。そんな死ねとか言われる様な事言ってないし」
「貴様の字とて読めるレベルでは無いだろうが!!」
「うんうん。だから別に馬鹿にしてないだろ。意外だから吃驚したし、嬉しかったんだよ」
「嬉しい?!オレの字が汚い事がか!」
「汚いなんて言ってないだろ。そうじゃなくて。完璧な海馬君にも完璧じゃない所があるんだなーってそう思って。ぶっちゃけた話オレお前の完全無欠なトコちょっとヤだなって思ってたんだけど、こんな文字書くんだって知ったら、もう大好きになった。好き過ぎて死ぬかもしんない」
「……い、意味が分からん」
「分かんなくてもいいから、そうか、って言えばいいんだよ」
「言えるか!!」
「好きだぜ、丸文字の海馬君」

 そう言って、オレは手に持っていたメモをひらりと反転し、『瀬人』の文字にちゅ、と唇を押し当てた。それに悲鳴の様な声で「やめんか!」と叫んだ海馬にも手を伸ばす。目の前にある顔は先程の氷の様な表情が嘘みたいに微妙に歪んで真っ赤だった。


 まるで、こいつの文字みたいにいびつな表情。それがとてつもなく可愛くて。

 オレは海馬の文字にキスをしたのと同じ様に、目の前の唇にキスをした。


 今日は20時よりも早く家に帰れるだろう。そんな事を思いながら。


End.

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散様/REMS

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