13
2010.02.14 


本日2月10日。バレンタイン4日前。今年のバレンタインでちょうど付き合って4年になる。高校からずっと付き合ってきたんだけど、なんていうか愛は膨れ上がるばかりで。今年こそはと奮起して、その、プロポーズ的な事をしようと思う。
しかし。問題はイベント事には滅法疎い海馬に、如何に要塞宜しくな心を揺るがすシチュエーションを作る事だ。海馬からのプレゼントなんて期待出来ないし、今年も何か俺だけが可哀想になる地雷が仕掛けられているに違いない。因みに海馬からチョコを貰った事は無い。
海馬がどれ程イベントに疎いかと言うと、今年の俺の誕生日だって仕事で会えなかったんだぜ?誕生日当日、一人で食べたコンビニのケーキの如何に塩辛かった事か。
ぐるりと寝返りを打って寝ている海馬と向かい合った時、海馬の後ろ頭のむこうに小さいメモがくしゃくしゃと丸めてあるのが見えた。手を伸ばしてメモを開くと走り書きで『13』とだけ書かれていた。丸っこい字だなあかわいいー、としみじみ眺めていてふと気付く。『13』って何だ。13時?13日?13番?13人目の彼女?13日でおさらば?おええ!!!悪い事しか考えられない!!


「ああああ!もう!わかんねーッ!!」


ベッド脇のゴミ箱にメモを丸めて放り込み、頭まで布団を被って目を瞑る。寝たら忘れるよ。忘れたい。疲れと、布団の二人ぶんの温もりが微睡みの世界へ手を引く。霞む記憶が途切れる寸前、海馬の目を見たような気がする。


*


13の意味が解らないまま、俺が住み着いているボロアパートにて、海馬と過ごすバレンタインの当日の夜。ラブいとか、そんな空気も無く時間が過ぎてゆく。現在2月14日、深夜1時過ぎ。この時間帯ならではの如何わしい内容の番組が網羅するメディアをぼんやり目に映しながら、片手間にリモコンを弄り回す。
安っぽい俺の部屋、うとうとと微睡んでいる海馬の頭が俺の肩にぶつかった。はっと目を開けて、またパタンと瞼が落とす海馬を見て笑いが込み上げる。


「海馬…?寝る?」
「ン……、」


ブラウンの柔らかい髪を撫でながら欠伸をした。二人で入るには狭すぎるベッドは当たり前のように海馬に譲り、ブランケットを掛けてやる。相変わらず如何わしい内容の番組がチカチカ光るブラウン管の音量を下げて、スウェットのポケットを漁る。藍色の小箱を開けると、この日の為に、所謂給料3ヶ月分の指輪、エンゲージリングなんて格好良い真似してみたけど、これが海馬の左手で霞まず輝いていられるかどうかが問題だ。今指に嵌めちまおうかな。
う、と海馬が唸って、むくりと起き上がった。半端なく焦る、箱はどうやら見付かっていないようで、何やら訝しげだが夢現の視線が突き刺さる。


「ど、したッ?」
「……わすれもの………、」
「…ッ、……!!!」


視界が暗くなって、ぷにぷにしたちんまい唇がぶつかる。満足そうに笑って、またブランケットを被る海馬を固まったまま見詰める。これ、おやすみのちゅうってやつ?


「……ふふ…、……やすみ………」


あ、無理。我慢出来ない。
そう思うのと同時にブランケットに包まった海馬を抱き締め、無理矢理歯列を割る。驚いて覚醒した海馬がバンバン背中を叩いた所で解放してやった。


「ッ、なんだぼんこつ…っ!」
「ごめん、好き、やっぱり好きなんだ、海馬のこと、大好き」


あ、今日の予定総崩れだなあ、折角日曜なんだからまったりお茶でもして、お洒落なフレンチ予約して、散々練習した『格好良い告白』も、みんな台無し。今時小学生でも言わないような「大好き」を連呼しながら、海馬のジャージを脱がしてゆく。首筋や背中にキスマーク付けながら、また強く抱き締める。
あんなに可愛い事言うから、あんなに可愛い事するから、いつも以上に余裕が無い。


「じょ、のうち…!」
「ごめん、止まんねぇ」
「待ッ、て、…ふうッ、ゥん、」


俺ばっかり感が否めないけど、本当に前戯も無しに悪いけど、早く早く身体の一番深い所で海馬と繋がりたくて仕方無い。優しくしたい反面で、がっついてしまう。無理矢理海馬の脚を開かせて、無理矢理押し進めようとした、ら。


「いッ、たい、ぞ!ぼんこつが!!」


ドス、と、鳩尾にクリーンヒットした海馬の膝。悶絶しながら鳩尾を擦って涙目で海馬を見ると、目の淵にいっぱいの涙を溜めて俺を見る海馬が居た。


「馬鹿か!少しは、人の事かん、がえ、ッ」


嗚咽混じりに訴える海馬を見て、俺はもっと泣きそうになる。酷いことした。俺ばっかり焦るから。


「ご、め……海馬、」
「ちょっと、驚いただけだ……、情けない顔するな、城之内」


よしよし、と頭を撫でられて、また情けない気持ちでいっぱいになる。


「あのな、好き、大好きなんだ…、」
「……知ってる」
「だから、海馬ももっと、教えてくれよ、俺さ、頭悪いから言ってくれなきゃわかんねぇんだもん、」


タイミングとか、もう完全に無視して、ゴソゴソと藍色の小箱を差し出す。土下座してもいい、頼むから俺の側に居て欲しい。


「あのさ、貰って?」


君を養う自信も、君を俺以上に幸せにする自信も無い駄目な奴だけど。


「誰よりも、ずっと海馬のこと大好きで居る自信だけはあるから、」


恋は自覚症状の無いビョーキだ。気付いた時アタマ可笑しくなるくらい好きなんだ。勝手に涙が出てきた。海馬が好き。大好き。愛してる。


「……海馬、…?」
「こういうの、お前が嵌めるんじゃないのか、違うか城之内」


すらりとした左手を差し出されて、取り出したシルバーのリングを嵌める。あれ?


「あれ、嵌まんない、」
「……サイズ測ったのか、」
「あ!!」


だらだら冷や汗が流れる。俺の指のサイズで測っちゃ駄目だろ!あーもう!!馬鹿馬鹿馬鹿!!!


「城之内、」


クツクツと楽しげに笑う海馬を見てひと安心。第二間接で止まった指輪をそっと箱に納めた海馬のぷにぷにした唇がまたぶつかった。


「明日、取り替えに行けばいい」


二人じゃ狭すぎるベッドの上に二人、やたら積極的な海馬のキスの雨を顔中に受けながら、今年一番甘いんじゃあないかってくらいの雰囲気で、海馬の腹の奥に留まっていた熱を解放した。


*


取り替えて貰ったばかりの指輪が薬指で光る度に嬉しそうに微笑む海馬を見て、俺も笑う。賑わう街を並んで歩きながら、ひとつ聞いておかなければならない事を思い出す。


「な、海馬、メモの13って、」
「あぁ、見たのか」


横断歩道の真ん中、海馬が立ち止まり、細身のジーンズのポケットからアクセサリーポーチを取り出す。


「お前の指のサイズだ」
「え、あ!」


ぽい、とぞんざいにアクセサリーポーチを投げて、さっさと横断歩道を渡る海馬を急いで追い掛け。海馬の斜め後ろを歩きながら、ポーチの紐をほどいて中身を取り出すと、俺が買ったのと同じ指輪。内側に彫られたメッセージ、未来永劫愛しています。


「海馬、これ…!」
「煩い!」


耳まで真っ赤にした後ろ姿が愛しくて愛しくて、賑わう街の真ん中とかどうでもいい。恋人の為のこの日に、世界で一番大好きな海馬を背中から抱き締めてやった。


End.

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