一日遅れの白い日
2010.04.13 


深夜。城之内が寝たのを確認してベッドを抜け出した俺は、床に座り込んで赤と黒のリボンでラッピングを施した紙袋を膝に抱えてうんうん唸っていた。

――また渡せないまま、ホワイトデーが終ってしまった…。

俺はこれまでにないぐらい盛大な溜め息を吐いた。
紙袋に入っているのは城之内に渡すつもりだった手作りのクッキーなのだ。
「渡すだけなら簡単ではないか。こんなものとっとと渡してしまえばいいものを……」
言ってはみるものの、実はバレンタインデーの時もチョコだけ作って結局渡せず終いだったのだ。
俺は二度目の溜め息を吐いてリボンと一緒にくくりつけてあるKC特製の青眼メッセージカードを開いた。
『凡骨へ
自惚れるなよ』
…自分から見ても可愛いげがないというのはわかる。俺がこんなメッセージ付きの贈り物をされたらきっと銃片手に相手の家に乗り込んでいくだろう。それぐらい可愛いげがない。
だからと言って好きだの愛してるだの書くのは俺のプライドが許さなかった。これがオトメ心というやつなのだろうか。
だが、城之内は、俺の字を好きだと言ったのだ。付き合う切っ掛けも字だった。
だから一言。一言だけでもと喜んで貰えると思ってメッセージを添えたのだ。
しかし、いくら上手く作ろうと、いくら気持ちを込めようと、渡せなければ意味はない。俺は素直に行動出来なかった自分を酷く恨んだ。
そもそも無駄な意地なんて張ってないで素直に「菓子をやる」と一言言えばよかったんだ。城之内だって昨日が何の日か知らなかったわけではないだろう。菓子さえ渡せばあとは自分からホワイトデーだからとかなんとか言ってくれたに違いない。
なのに…。なのに渡せなかった。メッセージカードまで付けた俺が馬鹿みたいだ。
じんわりと視界がぼやけてきたが、決して泣きそうになっているわけではない。
っ本当だからな!
こんなことで泣くものか。俺はもっと過酷な体験をしてきたではないか!両親の死とか剛三朗の虐待とか!
……だが…
「それ、くれるの?」
「!?」
突如背後から聞こえてきた声に肩を跳ねさせ振り返ると、そこにはいつの間に
か起きたらしい城之内がベットにうつ伏せに寝転がってこっちを見ていた。ついでに例の紙袋をガン見していることに気付き、俺は慌てて紙袋を背に隠した。
…もう遅いと思うが。
「じ、城之内…っ!?
いいい、いつから起きて…!」
「最初っから。ねぇ、それ。オレにくれるんじゃねぇの?」
「おっ、おのれぇ…っ!誰が貴様なんかにやるものかっ!」
「でも凡骨へって書いてあるし。凡骨ってオレのことだろ?それにホワイトデーじゃん」
「ホワイトデーは昨日だ!」
「…はは〜ん。わかった」
城之内はにやりと頭の悪そうな笑みをうかべ俺が悩んでいたことからなにまで全てをベラベラと言い出した。
「本当は昨日渡そうと思ったけど上手いことタイミング掴めなくて、とうとう今日になっちまったっつーことだろ。
いや〜、瀬人ちゃんにも可愛いとこあるじゃないの」
「………」
「あ、あれ?どしたの?」
「全部貴様の言う通りだ…。笑いたいなら笑うがいい!ふ、ふふ…ふはは」
「海馬さん…?」
「フハハハハハハハッ!!」
もうどうにでもなれ…。というか笑え。もういっそ笑いとばしてくれ。じゃないと俺が馬鹿みたいじゃないか。
狂ったように笑っているとぐいっと腕を引っ張られ、なんだと思う内に気付いたら城之内の腕の中にいた。
「落ち着けって。な?」
「…城之内…?」
「笑わねぇよ。だって海馬がオレのために用意してくれたんだろ?なんで笑うんだよ」
…珍しく城之内の顔が真面目だ。明日は槍でも降るんだろうか。
「あ、お前今とてもしつれーなコト考えてただろ」
「気のせいだろう」
「なんかしっくりこねぇが…ま、いいか。
本当はさ、バレンタインもチョコ貰えなかったしそろそろウザがられてるのかと思ったよ。
でもこういうのってもらう側も自分から動かなきゃ駄目だね」
「……ふ、そうだな。貴様が鈍感だから渡せず終いになるところだったぞ」
「はは、可愛くねぇの。
ところでその中身って何?」
「クッキーだ」
「手作りとか!」
「まぁな」
「食っていい?」
「む…仕方ないな。ホラ」
ガサガサと紙袋を開けて中からクッキーを1つだけとりだして城之内の口元にずいっと差し出してやった。
「もしかしてあーんってしてくれてる?」
「嫌なら食べてしまうぞ」
「あんヒドイ
…あ」
「どうした?」
「あんまり可愛いこと言うから、またしたくなっちゃった」
「この下半身男!
……仕方ないな…」
「どうしたの?珍しく素直じゃん」
「ヤらんのならもう寝る」
「ヤりますー。でもそのクッキー食べてから」
そういって城之内はクッキーを心底美味そうに粗食した。


++++++++++


「あぁ…く、うぅぅ、んくぅっ」
ぐぐっ、と侵入してきた熱いペニスに、悲鳴が上がる。これだけは何回経験しても苦しいものだ。
しかしそれも、ペニスが俺のイイところを擦ると、すぐに快感に変わり、俺を執拗に責め立てた。
「あぅっ、あ、ぁっ」
「海馬っ…海馬っ」
「はぁ、ぁん…あっ、あっぃ、ぁっ」
ぐっぐっと押し込まれるようなピストン運動に射精感がピークに達してくる。
「あ、ぁっ、や、あぁっ…も、イく、ぅ…っ!」
「いいよ…イって。オレも、そろそろイきそうかも…っ」
城之内ははぁっと熱い吐息を吐き出したのを合図に、一層激しく腰を打ち付け始めた。
すごい勢いで行き来するペニスに前立腺を擦られると、羞恥なんか忘れて腰が動くのを止められなくなる。
「ひっ、ぁあっ、んっ、あっ、アッ、くっあっアっ、あ!ああぁーっ!」
「く、ぅっ…!」
唯でさえ激しい動きのままとどめとばかりに最奥をグリッと抉られ、俺はあっけなく吐精した。脱力して息を整えていると、一拍遅れてナカに熱い体液が広がっていくのを感じた。城之内も精を吐き出したらしい。
「あー…
ヨかった」
ずるっと萎えたペニスを抜かれ、城之内も半ば倒れるようにすぐそばに横になった。
「あ、そだ」
俺と同じように息を整えていた城之内は思い出したように俺の顔をつかんで、こんどは至極優しく額に口付けてきた。
「クッキー、美味かったぜ。メッセージカードもサンキューな。直筆万歳。やっぱお前最高だわ」
「ふん…。あたりまえだ…」
城之内はへへっと子供みたいに笑っておやすみ、と目を閉じた。
さて、俺も寝ることにしよう。明日は休日だから遅くまで寝ていても大丈夫だろう。
しかし今思えば、2月14日にチョコレートを渡していたら今日お返しを貰うハズだったのだな…。渡していれば城之内はどのようなお返しをしてくれていただろうか。きっと何かしら気の効いた物をプレゼントしてくれてたに違いない。
ということで取り敢えず、1ヶ月後の4月14日にでもお返しをせびってやろう。
勿論、三倍返しでな。


End.

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一軸様/処方箋δ

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